2022年 04月 08日
Waldの逸話の作品集特別編 - 要点で学ぶ、デザインの法則150 -Design Rule Index |
で、書籍にはご丁寧にも「帰還した爆撃機の被弾箇所」なる図とキャプションがあるのですが、機種はどうみてもDC-3(というかC-47のつもりかな)ターボプロップエンジン換装型BT-67。おまけに、ロクにキャプションを読まず「帰還した戦闘機」なんて書いている
気になって原書を探してみました。
Amazonであっさり発見。書名は「The Pocket Universal Principles of Design: 150 Essential Tools for Architects, Artists, Designers, Developers, Engineers, Inventors, and Makers」(長すぎるよ)。で、ご覧の図がありました。
Waldの逸話が事実だったことには同意しますが、こういう変な引用が多いから、これまで信用できなかったんだよね。ちなみに、爆撃機が正しく描かれていても、この逸話で引用される弾痕の分布図はどれも捏造。1次資料に図はありません。孫引きして薀蓄を語る奴は頭悪いです。
▼もっとも正確で簡潔な「選択バイアスの罠」の罠
https://aim7.exblog.jp/238689388/
かくして、この図がいったい誰の創作なのか調べてみました。期間指定で画像検索して、追うことができた限りでは、2010年のこの記事が妄想の源。
▼The Counterintuitive World
http://www.motherjones.com/kevin-drum/2010/09/counterintuitive-world/
この絵は数年間はスルーされていましたが、2016年以降、パクる人が続出しています。上記の本の出版が2015年だからかな。やれやれ。
著者のKevin Drum氏はpolitical bloggerだそうです。絵を描いたCameron Moll氏はデザインの専門家。どうみても二人ともミリタリ知識は皆無だね。彼の記事の参考文献を知りたいところですが、おおかた、どこぞのブログかビジネス書でしょうな。
と思っていたところ、Twitterで制作者の言。2005年制作とのこと。機種は歴史的に不正確だったと吐露しています。
As the creator of the original Wald diagram in 2005 that inspired the duplicates that have followed, absolutely yes. (Clearly the aircraft I chose at the time was not historically accurate.また、弾痕を赤点で表現し脆弱な箇所に赤点を打たないフォーマットの図は、ぞれ以前に誰も描いていないとのこと。
https://twitter.com/cameronmoll/status/1317661364631097345
As far as I can tell the “original” study was by Wald himself in 1943. I have to believe other diagrams have been created over the years but as far as I’m aware prior to mine none had been created in the popularized format (red dots, vacant groups in the middle of the wing etc).Moll氏のサイトに
https://twitter.com/cameronmoll/status/1317872539306233859
Thinking and Leaping,とあり、https://geniantsandbox.com/2007/08/03/thinking-and-leaping がその講演資料らしいのですが、残念、ページは閉じられています。が、2007年のこちらのページにその時のものと思しき図があります。
the story I often recount in conference presentations of Abraham Wald’s ingenuity in data analysis during WWII (fix vs. prevent).
http://cameronmoll.com/linkage/
▼So Happy Together #1
https://blog.mrmeyer.com/2007/so-happy-together-1/
制作者のことがある程度わかったところで更に調べたら、「Design Rule Index 要点で学ぶ、デザインの法則150」の原書「The Pocket Universal Principles of Design」には出版社サイトに訂正があって、図の出典はCameron Moll氏とこっそり書いています。AMSのサイトにThe Legend of Abraham Waldが掲載された後、これはWaldが描いた図ではない、と読者に指摘でもされたんですかねえ。
▼The Pocket Universal Principles of Design: Errata
http://universalprinciplesofdesign.com/books/the-pocket-universal-principles-of-design-errata/
ともあれ、出版社が訂正し制作者が名乗り出て間違った機種ですと言ったことで、Quoraの長々した考察は滑稽になってしまいました :D
▼実はフェイクでありながらも、未だに多くの人が真実だと信じている写真はありますか?
https://jp.quora.com/実はフェイクでありながらも-未だに多くの人が真実
▼人工知能ってそういうことだったのか会議~Shannon Lab田中潤様~
https://www.mm-lab.jp/interview/meeting_that_understands_artificial_intelligence/
▼アナタのその分析、「仮説」はありますか? (1/2)
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1703/10/news011.html
▼「人工知能ってどこでダウンロードできるんですか?」→無理です (4/4)
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1708/24/news014_4.html
なぜか参考文献を教えてくれないのですが、上記の最後の記事にありました。Journal of the American Statistical Association, Vol. 79, No. 386に掲載された"Abraham Wald's Work on Aircraft Survivability"です。はて、本当に読んだのかな? この記事は1次資料の紹介記事で、双発機のエンジン、胴体、燃料システム、その他の被弾状況とそこから計算した脆弱性を提示しているだけなんだけど。しかも、ITmediaとあろうものがJSTORで原書の購入を促すのでなく、何やらコピーサイトにリンクしています。イメージと断っているとはいえ、タイフーンの画像が貼ってあるのも頭おかしすぎ。
もっというと、中途半端にSRGの活動に言及していたり、1次資料に無い尾ひれもいくつかついています。想像するに、1次資料はまったく読まず、複数の誤った2次資料からそれぞれユニークな記述をよせ集め、先人のどの記事より詳しいことをネットでバズって欲しかったのではなかろうか。「誤った学習結果による誤ったアウトプット」を身をもって例示した
▼Waldの逸話の作品集 -8-
https://aim7.exblog.jp/239567978/
▼更新履歴
2017.03.22 記
2017.12.02 妄想の源を追記
2019.09.14 画像差し替え&主旨を強調
2019.10.19 さらなる孫引き書籍を追記
2022.04.08 2020年以降の情報を追記
by aim-120a
| 2022-04-08 20:37
| 航空宇宙
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